(ニュースから)フォークで刺された盲導犬、実は単なる皮膚病だった
この事件は警察が犯人を捕まえられないのではない。そもそも、最初から犯人なんていないのだ—。
オスカー事件が公になった直後は、日本中で怒りの声が上がった。
「盲導犬をフォークで刺すなんて人間じゃない」、「飼い主にとっては自分が刺されたのと同じ」といった声が巷には溢れ、芸能人や文化人、政治家までもが怒りのコメントを寄せた。愛犬家で知られる川島なお美やデヴィ夫人らは、「犯人を絶対に許してはならない」と憤慨した。
しかし、こうして日本中が激怒し、憎んだその犯人が「存在しない」とは一体どういうことなのか。本誌は事件の真相を追った。
警察の捜査はまず「犯行現場の特定」から始まった。男性の自宅から最寄り駅まで、そして降車駅から職場までの経路は、目立つはずなのに目撃証言もなく、路上での犯行の可能性はない、と断定した。
電車内でフォークを取り出して犯行に及ぶとも考えにくく、そうすると必然的に駅構内での通り魔的犯行、ということになる。この二つの駅に捜査員が集中的に投入された。
「3000枚のビラを配布し、聞き込みを行いましたが、何より期待されたのは防犯カメラの映像です。駅に設置されている100台以上の防犯カメラを、夜通しで徹底的に解析しました」(捜査関係者)
しかし、防犯カメラに映っているはずのオスカーが刺される瞬間が、一向に見つからない。それだけではない。捜査関係者が続ける。
「オスカーはこの日、犬用のシャツを身に着けていました。フォークで刺されたのなら当然、このシャツには穴が空いているはず。ところが不思議なことに、シャツには刺された跡がどこにもなかったんです。
オスカーが刺されたとすれば、犯人は一度シャツをめくって刺して、再びシャツを元に戻して逃走したことになる。こんなことをすれば余計に目立つはずです」
それなのに、防犯カメラにはそのシーンが映っておらず、目撃者も現れなかった。さらに、前出の全国紙記者が言う。
「オスカーは大型犬のラブラドール・レトリバーで、皮膚は相当分厚い。片手で服をまくり上げて、もう片方の手だけで、あそこまで深い傷をつけるのはかなりの力が要ります。
もし刺されていたら、相当な痛みがあるはずなので、なにかしらアクションを起こすと思うんですが、飼い主は『オスカーが鳴き声を上げたり、暴れたりするような気配はなかった』と言っています」
一部では「盲導犬は何をされても吠えないよう訓練されている」という情報も流れたが、盲導犬協会関係者によると「盲導犬は痛みに耐えるような訓練は受けていない」と言う。
いくら飼い主に忠実な盲導犬とはいえ、自らの身に危険が迫った時には、防衛本能が働くだろう。声すらあげないというのは「フォークで強く刺された」という犯行様態と矛盾する。
埼玉県警武南署の副署長は苦渋を滲ませながら、本誌にこう語る。
「監視カメラにオスカーが映っていたか?それは捜査の関係上申し上げることはできません。一つ言えるのは、オスカーと一緒に怪しい人物が映っていたとしたら、とっくに捜査をしているということです。
市民からも『早く犯人を逮捕して』、『警察は何をやっているんだ!』という叱咤激励のお電話をいただき心苦しい。しかし、なにせ情報がない。我々としても、今は動きようがない、というのが実情です」
広報担当である所轄の副署長が、ここまでハッキリと捜査の難渋を認めることは極めて珍しい。副署長は「捜査をやめますとは、もちろん言えない」とも漏らした。それはつまり、表向き捜査は継続中だが、実のある捜査が行われていない、ということだ。
白昼の駅構内の犯行で、警察がこれだけ探しても犯人が見つからない。
「それが何を意味するか?この事件には、『犯人はいない』ということです」(前出の捜査関係者)
オスカーは刺されていなかった。これがどうやら、この事件の真実なのだ。
ではなぜ、オスカーは傷を負い出血していたのか。それについて今、予想外の見立てが浮上し、それが県警内部でも徐々に広がりつつあるという。
その見立ての中身を明かすのは、東京都渋谷区にある、どうぶつ病院ルルの塩谷朋子院長だ。彼女によると、オスカーは「ただの『皮膚病』だった可能性がある」というのだ。
「獣医師の間ではそういう意見が少なくありません。写真の傷跡は、大型犬が夏にかかる『膿皮症』によく似ています。数日前から腫瘍ができていて、膿が溜まって、それが破裂した傷跡だと考えても、不自然ではありません。その傷跡がフォークで刺されたように見えたのではないでしょうか」
皮膚病はラブラドール・レトリバーがもっともかかりやすい病気の一つである。ニキビのような小さな腫瘍が毛の下にできて、やがて弾けて出血する。その傷跡は穴が空いたようになり、まるで鋭利な刃物で刺されたようにも見える。
本誌は最初に「フォークで刺された」と診断した、なぎの木どうぶつ病院の内田正紀院長の元を訪れた。すると内田獣医師から、思わぬ答えが返ってきた。
「最初から私は『フォークで刺された』と断定はしていませんよ。皮膚病の可能性も十分あると思っていました。ただオスカーをうちに連れてきた飼い主の友人の話によると、飼い主は『オスカーが耳を掻くのも分かる』と言うほど、行動を把握しているという。そして、その飼い主が『出血の数日前に皮膚に異常はなかった』と言っていると聞いたので、刺された可能性も否定できないと答えたんです。
私の診断が発端で、これほどの騒ぎになってしまい、戸惑っているのも事実です」
「オスカー事件」がここまで広く拡散したキッカケは、飼い主の職場の同僚の家族が、義憤に駆られて送った朝日新聞への一通の投書だった。その投書にはこう書かれていた。
〈全盲の方の愛犬が、お尻をフォークのようなもので刺されました。(中略)こんなことをしたあなた。これは、いたずらでは済まされないことですよ〉
「週刊現代」2014年11月22日号より
衝撃スクープ!フォークで刺されたはずの盲導犬オスカー「実は刺されてなんか、いなかった」日本中が激怒した事件に意外な新証言が…… | 賢者の知恵 | 現代ビジネス [講談社]
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41100