(ニュースから)【日本の解き方】消費税10%へ手を打つ財務省 財政再建の必要性を「ご説明」

 4月からの消費税増税で、経済は「想定外」の落ち込みとなっている。昨年秋に8%への増税を決めたとき、エコノミストの約7割は「景気に対する影響は軽微」と主張していたが、現時点では大外れだ。これから「想定外」のリバウンドをしないと、「想定内」に戻らない。

 今年の年末に、来年10月からの消費税率10%への再増税を決める。既に法律で決まっているので、それを予定通りにするのか、しないのかという最終判断だ。もし消費税増税をスキップしようとすれば、新たな凍結法案を国会で成立させる必要があり、増税の根拠になっている自民、民主、公明の3党合意を破棄しなければいけない。政治的にはほぼ不可能といえるプロセスが必要である。

 こうした状況を見越して、財務省は再増税をスムーズに運ぶために、着々と手を打っている。

 筆者は地方に行ったとき、地元の人といろいろな会話をする。もちろん、消費税増税に批判的な筆者の主張をよくご存じの方なので、消費税の話もしばしば出てくる。そうした中で、こんな話があった。「先日、財務省の誰それさんが財政状況の説明にきてくれた。昔は財務省の偉い人がこんな田舎まで来てくれて話をすることなんてなかったのですが、時代が変わりましたね」というのだ。

 財務省の「ご説明」の中身は、今の財政状況の問題や、そのために増税が不可避で、もし増税しないと国際公約違反となり、財政信任が失われて金利が上昇する-といったものらしい。

 ここでのポイントは、財政再建のために増税するという論理だ。筆者は、財政再建のために最も有効な方法は経済成長であるとデータで示し、悪いタイミングの増税は経済成長を阻害し、財政再建のために逆効果であると主張する。また、小泉政権の時には増税なしで財政再建がほぼできたという事実も指摘する。ここまで言うと、多くの人は筆者の主張を理解する。

 しかし、財務省に対抗できないところもある。オモテの説明では言わないが、経済界には法人税減税、官界には予算バラマキをにおわせることだ。もちろん、与えるアメがないような一般人にとってはまったく意味がないが、アメを受け取れる人にとってはのどから手が出るほどおいしい話だ。おそらく財務省は話す相手ごとに、欲しそうなアメを代えて出しつつ、消費税増税のシンパを増やしているのだろう。

 ある財務省の人が、大学で租税政策を教えるようになったことについて、「租税の経済理論は知らないが、政治力学だけ知っていれば、教えられる」と豪語していた。まさしく、財務省の増税キャンペーンは、政治力学を熟知した行動だ。

 興味深いのは、マスコミへのアメである軽減税率はまだ出ていないようだ。これにしびれを切らして、マスコミが増税に反対すると面白くなるだろう。ようやくマスコミでも、最近は増税で景気が悪くなりつつあると報じるようになったので、その可能性はあるだろう。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

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