(ニュースから)盗聴問題めぐり識者が指摘 日本は米国の「真の身内」ではない

盗聴問題めぐり識者が指摘 日本は米国の「真の身内」ではない – ライブドアニュース
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 米国家安全保障局(NSA)が日本の政府高官や大手企業などを盗聴していたと内部告発サイト「ウィキリークス」が公表した問題が波紋を広げました。安倍首相は「仮に事実であれば同盟国として極めて遺憾」と国会答弁で述べました。NSAとは、盗聴や暗号解読などを担当する国防総省傘下の機関ですが、このような情報収集活動を、どのように受け止めればいいのか。インテリジェンスの問題に詳しい軍事ジャーナリストの黒井文太郎氏が解説します。

独メルケル首相の電話も長年盗聴

 7月31日、機密情報告発サイト「ウィキリークス」が、アメリカが日本で盗聴を行っていたことを示す資料を暴露しました。経産相、官房長官秘書官、政府高官、日銀、三菱商事や三井物産のエネルギー部門など、少なくとも35カ所の日本国内の固定電話が盗聴されていたということでした。

 最大の同盟国であるアメリカが日本をスパイしていたということですが、そんなことは情報の世界では当たり前のことです。たとえば昨年10月にも、ドイツのメルケル首相の携帯電話が長年にわたって盗聴されていたことが発覚しています。

 情報の世界では、真の同盟国というものは存在しません。安全保障上の同盟国でも、相手国の本当の考えを知っておくことは何かとメリットのあることであり、相手国との同盟関係にヒビが入らない程度にスパイすることは、しばしば行なわれてきました。

 それはアメリカに限った話ではありません。首相が盗聴されていたドイツでも、首相直属の対外情報機関「連邦情報局」(BND)が、フランスの外交官を含む多数のドイツ発着信のメールや携帯電話の傍受を行っていたことが、今年4月に独誌『シュピーゲル』で報じられています。しかも、BNDにその工作を依頼したのはアメリカの通信傍受機関「国家安全保障局」(NSA)だったそうです。NSAは前述したメルケル首相盗聴を実行していた機関ですが、このように情報の世界では、同盟国間でもときに協力しつつ、ときにスパイし合うということが日常的に行われています。

 また、イスラエルとアメリカは事実上の同盟国であり、情報の世界でも対中東諸国や対ロシアなどのスパイ工作ではしばしば協力関係にあるのですが、1985年にはイスラエルのスパイだったユダヤ系米国人の米海軍将校が摘発されています。イスラエルにとっては、アメリカもまた諜報工作の対象ということなのです。

経済分野ではなおさら工作の対象に

 安全保障だけではなく、経済的な分野ならなおさら同盟国といえどもライバル関係にあるわけですから、互いにスパイ工作の対象となります。

 例えば1994年には、米NSAが盗聴によって、仏エアバス社によるサウジアラビアへの航空機売り込みで巨額の贈収賄が行われていることを掴み、それによって米企業ボーイング社が逆転受注するということがありました。NSAが米企業の利益のために情報提供したわけです。

 また、1995年の日米自動車協議の際には「NSAが日本の通産官僚と自動車企業幹部の通信を盗聴していた」と米紙『ニューヨーク・タイムズ』が報じたこともあります。インテリジェンス(情報活動)に関する疑惑に対しては、どの国の政府も「公式には肯定も否定もしない」というのが情報の世界の暗黙のルールなので、アメリカ政府もこの疑惑を黙殺していますが、事実無根であれば何がしかの非公式リークで情報の否定を試みるはずですので、まず事実と判断してよいでしょう。

 さらに、2013年にアメリカから逃亡した元NSAスタッフのエドワード・スノーデン氏が暴露した情報によると、NSAはワシントンやニューヨークの計38の外国大使館やEU代表部などの盗聴を行っていて、その中には日本、フランス、イタリア、トルコ、メキシコ、韓国などのアメリカの同盟国ないし事実上の同盟国も含まれるといいます。

 もっとも、アメリカはスパイ活動の中でも、こと盗聴工作に関しては、連携している国々があります。イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドで、これらの国はアングロサクソン系英語圏ということで互いに強い連帯感を持ち、冷戦時代から対共産圏の通信を傍受するために地球規模の盗聴システムを協力して構築し、運用してきました。

 こうして協力を深めてきた5カ国の盗聴機関は冷戦終結後も、その特殊な協力関係を保っています。たとえば2003年のイラク戦争直前には、イギリス通信傍受機関「政府通信本部」(GCHQ)が、NSAからニューヨークの各国連安保理理事国代表部や国連事務総長の通信の盗聴を要請されていたことが発覚しています。NSAは米国内での活動を米国内法によって縛られているため、露呈した場合の政治的ダメージが大きい米国内での秘密工作を、米国内法に縛られないGCHQに肩代わりしてもらおうということだったようです。

英や豪と違い「真の身内」ではない

 日本はアメリカの同盟国ではありますが、イギリスやオーストラリアとは違い、やはり真の意味で「身内」ではありません。日本に対する盗聴も、最近始めたわけではありません。NSAの秘密活動を暴いたニッキー・ハーガーの労作『シークレット・パワー』(96年刊)には、NSAは冷戦時代から日本の外交通信を傍受し、米本土ワシントン州のヤキマ陸軍基地内の拠点で分析を統括していたとの指摘があります。

 また、青森県の米軍三沢基地には大規模な軍事用電波傍受施設がありますが、そこでは日本からの民間衛星通信も傍受されていたと思われます。さらにスノーデン情報では、対日を含む対東アジア盗聴工作は、ニュージーランド情報機関が主体になって行われていたということです。

 もっとも、日本はもともとアメリカ政府にかなりの情報を日常的に提供しているともいえます。官邸も防衛省も外務省も経産省も、その他のほとんどの省庁も、アメリカのカウンターパートと公式にかなりの情報を共有しているうえ、担当者個人同士でも日常的に深く接触しています。有力な国会議員や財界人も、アメリカ政府当局者としばしば個人的に接触しています。したがって、安全保障や外交などの政治的な案件では、アメリカ側は充分に日本側の情報を入手しているものと考えられます。つまり、日本の隠された意図を探る必要性をそれほど感じていないわけです。

 実際、今回明らかになった対日盗聴工作も、日本政府の経済政策部門や、商社のエネルギー戦略部門などが主な標的になっています。ときにアメリカとも利害がぶつかるそうした分野では、アメリカによる対日スパイ工作は今後も続いていくものとみていいでしょう。

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