(ニュースから)子や孫のため「謝罪外交に終止符」 安倍首相が肉筆に込めた思い

【歴史戦 第12部 戦後70年談話(上)】子や孫のため「謝罪外交に終止符」 安倍首相が肉筆に込めた思い (1/4ページ) – 政治・社会 – ZAKZAK
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 「戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」

 戦後70年の安倍晋三首相談話はこう強調する。安倍は常々、周囲に「謝罪外交に終止符を打ちたい」と語っており、文言にはその思いが表れている。戦後50年の村山富市首相談話などにはなかった新しい視点だ。

 日本は戦後処理をめぐって、同じ敗戦国であるドイツとよく比較されてきた。ドイツは誠意をもって謝罪したため周辺国との和解を成し遂げたが、日本は十分に謝罪しなかったため失敗したとの文脈でだ。そうした場合に度々引用されてきたのが、西ドイツ大統領、ワイツゼッカーが1985年に行った有名な演説「荒れ野の40年」だ。だが実際にはワイツゼッカーは演説で謝罪はしていない。逆に次のように指摘している。

 「自らが手を下してはいない行為について自らの罪を告白することはできません」「ドイツ人であるというだけの理由で、粗布の質素な服を身にまとって悔い改めるのを期待することは、感情をもった人間にできることではありません」

 安倍は謝罪の繰り返しにけりをつけることに関して、14日の記者会見でこう語った。

 「これは今を生きる私たちの世代の責任だ。そういう思いを盛り込んだ」

 談話のもう一つ新しい点は、村山談話などに全く見られなかった過去の日本が置かれた国際情勢の分析・言及だ。70年談話に関する有識者会議「21世紀構想懇談会」が6日に提出した報告書を基にしたもので、例えばこう説いている。

 「欧米諸国が、植民地経済を巻き込んだ、経済のブロック化を進めると、日本経済は大きな打撃を受けました。日本は、孤立感を深め、(中略)行き詰まりを、力の行使によって解決しようと試みました」

 日本が「進むべき針路」を誤り、それが敗戦につながったことは直視しつつも、ある日突然、軍国主義の怪物国家となったかのような説明不足の過去の首相談話とは一線を画した。

 中国や韓国が注目した「侵略」「植民地支配」「お詫び」「反省」のいわゆるキーワードは入れたが、対象を直接的に書かずに一般論として引用した。

 安倍は当初、談話に「侵略」を書き込むことに消極的だったが、21世紀懇の報告書に「侵略」が明記されたことから盛り込むことにした。政府高官は「侵略の定義は専門家でも意見が分かれるが、過去の日本の行為が国際社会で侵略と評価されたことがあるのは事実だ」と説明する。

 「侵略」などの文言使用に反対してきた保守層からも、「今の日本が置かれた状況を考えると許容範囲だ」との声が出ている。

 談話は官僚が下書きしたものではなく「首相の肉筆だ」(別の政府高官)とされる。作成に当たり安倍は21世紀懇の報告書や何冊もの歴史書を丹念に読んだ。

 同時に自ら調整にあたり、7日には公明党代表、山口那津男から歴代談話の継承を求める同党の要望を直接聞いた。山口は14日、数日前に安倍から連絡があったことを明らかにし「結果を尊重したい」と述べた。会見で安倍は「談話では、より多くの国民に賛同してもらえるものを作成したいと考えた」と語った。

 先の政府高官は安倍の思いを代弁する。

 「一度に満点はとれない。歴史認識で日本は一方的に押し込まれていたが、この談話を押し戻すきっかけにする」

 14日夕、駐日中国大使、程永華が外務省を訪れ、外務次官、斎木昭隆と会談し、戦後70年安倍晋三首相談話について説明を受けた。程は「一読して本国に伝える」と述べたという。中国が談話に強い関心を持っていることをうかがわせる。

 国営新華社通信(英語版)は談話について速報し、「過去のお詫びに言及したが、未来の世代は謝り続ける必要はないと述べた」と批判的に報道した。

 韓国外務省当局者によると外相、尹炳世は14日午後7時すぎに電話をかけてきた日本の外相、岸田文雄に「説明と談話の内容を綿密に検討し、われわれの立場をすぐに明らかにする」とした上で、「日本政府の誠意ある行動が何よりも重要だ」と強調した。聯合ニュースが伝えた。

 談話では、韓国が「解決」を強く求めている慰安婦問題について、「戦場の陰には、深く名誉と尊厳を傷つけられた女性たちがいたことも忘れてはなりません」などと2回にわたって、間接的に触れるなど一定の配慮を示した。

 談話をめぐって、海外でも高い関心が集まり、早くからその内容を牽制する発言や報道が相次ぐ異例の展開を見せたことも意識した結果といえる。

 談話に関してとりわけ韓国と中国は、過去の日本の植民地支配と侵略について「お詫びの気持ち」を表明した平成7年の村山富市首相談話や、村山談話を踏襲した17年の小泉純一郎首相談話の継承を露骨に要求してきた。

 「韓国政府は歴代内閣の談話に盛り込まれた歴史認識を明確な言葉で表明するよう何度も求めてきた」

 尹は12日、ソウルでの会合でこう述べた上で「談話は今後の両国関係改善の試金石になる」と指摘した。

 7月下旬には米ワシントンを訪問した韓国与党・セヌリ党代表、金武星らが米要人に「日本の歴史認識が韓日協力進展の障害となっている。日本は率直に『謝罪』を表明すべきだ」と述べ、安倍への働きかけを要請した。

 これには安倍談話が、15日の光復(日本支配からの解放)70周年記念式典で行う大統領、朴槿恵の演説内容に直接関わってくるという韓国側の事情がある。対日関係のくだりは安倍談話発表後に最終調整しなければならない。演説のハイライトが最後まで決まらない状態となっていたのだ。

 中国も注文をつけた。外相、王毅は「戦争の性質」を明確にすることを求め、「侵略」や「植民地支配」を盛り込むことを要求。明確にしなければ「深く反省するとしても一体何に反省するのかはっきりしない」と牽制した。

 共産党筋によれば、中国当局が警戒していたのは、談話に「お詫び」の文言があるかどうかだ。もしなければ、村山談話と比べて大きく後退したとも解釈できるため、習近平指導部のここ数年の対日外交が「失敗した」と多くの中国国民は受け取るだろう。そうなると求心力は低下し、党内の習に批判的な勢力にも利用されかねないからだった。

 この点について安倍は14日の記者会見で「『お詫びの気持ち』は歴代内閣が引き継いできた」と改めて述べ、さらにこう訴えた。

 「中国には、戦後70年に当たってのわが国の率直な思いをありのまま受け止めてもらいたい」

 米国は中韓のような要求はしなかったが、安倍が歴代首相談話を継承するか注視した。7月27日、ワシントンを訪れた自民党衆院議員、河井克行は、オバマ政権高官から「今回の談話と(戦後60年の)小泉首相談話の関連性はどうなるのか」と探りを入れられた。

 ただ、米側の反応を受けて日本政府側が「小泉談話を読んだことがあるのか」と問い返すと、米政府関係者は実は読んでいなかった。結局、米政府が日本側に伝えていたのは「談話をアジアの平和と安定に寄与するものにしてほしい」という一点に集約される。

 談話の内容と表現をどうするかは、安倍に任せるという基本的な立場を取ったのも、安倍が4月に米連邦議会で行った歴代内閣の立場継承を含む演説を高く評価しているためだ。

 談話に対する中韓や米国など各国の公式な反応が出てくるのはこれからだ。

 「70年前の歴史から学べる教訓を発信していくことは、日本一国のみならず、世界に対しても、大きな現代的な意味を持つ」

 安倍は14日の記者会見で談話の意義について力を込めてこう語った。

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