(ニュースから)イラクに派遣された自衛隊員の自殺率、ちゃんと計算すれば分かる事実

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http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20150623/dms1506230830005-n1.htm

 衆院の安保法制特別委員会における5月27日の政府答弁が話題になっている。イラク戦争のイラク特措法とアフガニスタン戦争のテロ特措法に基づいて派遣された自衛官のうち、これまでの自殺者について、イラク特措法で陸上自衛官が21人、航空自衛官が8人で計29人、テロ特措法で海上自衛官が25人で、合計54人-と政府は答弁した。

 この数字について週刊誌では「どう考えても普通じゃない なんと自殺者54人」などと報じている。

 その中では元政府高官が「そもそも、自衛隊全体で隊員10万人あたりの自殺者数を計算すると30~40人となり、これは世間一般の1・5倍と多い。しかしイラク派遣部隊の数字は、さらにその約10倍になる」ともコメントしている。

 筆者は、これを読んだとき、本当かと疑問に思った。筆者の頭にひらめいた直感は、イラク派遣で29人の自殺者というのは、派遣から7年間の数字で、1年平均にすればだいたい4人。イラク派兵はだいたい1万人だから、10万人あたりにすれば40人、これは自衛隊全体の平均と同程度ではないか、というものだった。

 これに関してもう少し調べると、ある大手新聞の論説委員による2012年の記事に「イラク特措法で派遣され、帰国後に自殺した隊員を10万人あたりに置き換えると陸自は345・5人で自衛隊全体の10倍、空自は166・7人で5倍になる」とあった。

 ただし、これは計算ミスではないか。10万人当たりの自殺者数を計算するとき、分子には1年当たりの自殺者数を置くべきところを、この記事では累積の自殺者数としている。これでは異常に高い自殺率となって不思議ではない。

 前出の政府答弁の数字に基づき、目の子算ではなく、きちんと計算してみよう。

 イラク特措法とテロ特措法で派遣されたのは、陸上自衛隊5500人、航空自衛隊3600人、海上自衛隊1万3800人で合計2万2900人。7年間で自殺者数54人とすれば、10万人当たりの自殺率は33・7人となる。

 前出の新聞記事にある自衛隊全体の自殺率は10万人当たり34・2人。つまり、自衛隊平均の10倍ではなく、ほぼ同じ水準だ。

 ちなみに厚生労働省が公表している2010年人口動態統計職業・産業別調査によれば、15歳以上の男子の自殺率は10万人あたり38・0人。内訳は就業者で21・6人、無職で63・6人だ。

 就業者のうちでも、公務員は22・3人で、自衛隊やイラク等派遣はそれより高いが、農林業の49・9人、漁業の57・3人、鉱業の285・3人、電気・ガス・水道の83・6人よりは低い。

 米国ではイラクなどへの派遣兵の自殺率が高いといわれており、日本の自衛隊でも同じはずだという思い込みがあるのかもしれないが、実際のデータはちょっと違う姿になっている。

 筆者がインターネット上で指摘した後、防衛省もイラク派遣自衛官の自殺率を10万人当たり33人と公表した。 (元内閣参事官・嘉悦大教授、高橋洋一)

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