(ニュースから)不正競争防止法が成立…「産業スパイ天国」返上なるか 論説委員・井伊重之

【日曜に書く】不正競争防止法が成立…「産業スパイ天国」返上なるか 論説委員・井伊重之(1/4ページ) – 産経ニュース
http://www.sankei.com/column/news/150719/clm1507190007-n1.html

 これで「産業スパイ天国」の汚名を返上できるだろうか。

 会社が独自に開発した技術や自社の顧客リストなどの企業秘密をめぐり、不正な手段で取得した個人や会社に対する罰則を大幅に強化した改正不正競争防止法が成立した。

 とくに外国企業への漏洩(ろうえい)について厳罰化し、最大で10億円の罰金を科すほか、盗んだ企業秘密で得た不正利益を政府が没収することも可能にした。さらに被害企業からは損害賠償も請求されることになり、外国企業による「盗み得」を許さない仕組みとしたのが特徴だ。

 盗用に対する抑止効果を高めたことで、専門家の間では「世界で産業スパイに最も厳しい米国の制度に近づいた」と評価する声が多い。だが、これで日本企業の技術が外国から完全に守られるわけではない。

 企業秘密は、退職した自社の元技術者によって転職先に持ち出されることが圧倒的に多い。「身内に甘い」とされる日本企業の技術に対する防衛意識も変革を迫られている。

 ◆米はFBIが事件摘発

 史上最大の産業スパイ事件と呼ばれる事案がある。米ボーイング社の中国系技術者がスペースシャトルなどに関する膨大な情報を30年以上にわたって中国側に提供したとされ、2008年に逮捕された。これは冷戦終結後の1990年代に米政府が整備した経済スパイ法などを活用し、FBI(連邦捜査局)が摘発したものだ。

 しかし、日本では外国企業への技術流出を厳しく取り締まる制度がなかった。「産業スパイ天国」と揶揄(やゆ)されるのはこのためだ。「技術の不正流出は、それを守れなかった企業の恥」として被害企業が外部に事実を公表せず、泣き寝入りすることも多かったという。そうした内向きの空気が法改正で変わることが期待されている。

 経済産業省は、これまでも不正競争防止法を段階的に強化してきた。だが、企業秘密の流出事件が続き、日本の国際競争力の低下にもつながっているとの産業界の声を受け、抜本的に見直した。これまで罰金上限は個人で1千万円、法人で3億円だったが、個人で2千万円、法人は5億円とし、海外企業への漏洩は3千万円、10億円にそれぞれ改定した。

 ◆海外への漏洩は厳罰化

 外国企業などへの不正流出を厳罰化するのは、その経済的な損失が極めて大きいからだ。国際競争力の源泉である自国の先端技術が盗まれて世界市場における競争に負ければ、下請け企業などを含め、国内の雇用が奪われかねない。

 このため、今回の法改正では個人や法人の犯罪収益の没収規定も設けた。欧米各国とも海外への技術漏洩には神経をとがらせて罰則を強化しており、日本もようやく国際標準に並ぶことになる。

 警察などによる強制捜査も行いやすくなった。従来は被害を受けた企業から被害届が出されないと捜査できなかったが、今後は捜査当局が独自に判断して立件できるようになる。新たに未遂罪も創設し、企業秘密を盗もうとしただけで逮捕が可能になる。

 一方、賠償請求などの民事訴訟については、被害企業の立証責任を軽減した。これまで日本では、情報を盗まれた企業が盗んだ企業を提訴する場合、主要な立証責任は原告側が負っていたが、これを被告側に負わせる仕組みに変更した。訴えやすくすることで、犯罪の抑止効果を高めることを狙っている。

 ◆技術防衛へ意識改革を

 経産省が昨年秋に実施したアンケートによると、「国内外で企業秘密が不正に使われたと疑われる事例がある」と答えた企業が6割にのぼった。そして9割近くの企業が「技術やノウハウの漏洩リスクが高まっている」と指摘するなど、産業界の強い危機感が示された。

 これを受けて政府は今年1月、経団連をはじめとする経済団体と合同の対策会議を開き、技術流出の手口などの情報を共有化することを確認した。この会議では法整備の重要性とともに、民間企業の取り組み強化も進めることで合意した。

 この会議でまとめた行動宣言では「技術の漏洩者には民事および刑事上の措置を辞さない厳正な態度で臨む」と強調し、企業側の対応を促した。最近では新日鉄住金や東芝が相次いで韓国企業を技術の不正流出で訴えるなどの動きも出ている。

 企業秘密を守るのは、あくまで企業自身だ。その決意が問われている。

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