(ニュースから)【大前研一のニュース時評】マイナンバー制、国民の利便性は不透明 納得のいく制度に作り直すべき

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http://www.zakzak.co.jp/society/domestic/news/20150913/dms1509130830003-n1.htm

 共通番号(マイナンバー)の利用範囲を拡大する改正共通番号制度関連法が3日、衆院本会議で自民、公明、民主など各党の賛成多数で可決、成立した。マイナンバーは国民一人一人に12ケタの番号を割り当て、税金や社会保障などに活用する制度。この10月から通知カードが各世帯に送付され、来年1月から利用が始まる。

 このマイナンバー、身分証明書の代わりに使えるとか、コンビニで住民票を取得できることなどをメリットのひとつにしている。しかし、マイナンバーで電子化したら住民票なんかいらないはずだ。ほかにも、医療費控除の領収書が不要になるとか、メタボ健診の結果や予防接種の履歴情報も共有できるなど、医療への活用がうたわれている。

 しかし、最大の目的はマイナンバーと金融機関の預貯金口座番号を結びつけることにある。そうなると、別々の金融機関に預けられた資産が把握でき、脱税や年金の不正受給防止に役立つという。

 政府が国民監視のために使う、という昔からある国民総背番号に対する懸念が次第に浮かび上がってきた。一方、マイナンバーによって国民の利便性がどれだけ上がるのかについては、クリアになっていない。

 政府は消費税率を2017年4月に10%に引き上げるのに合わせ、「酒を除くすべての飲食料品」の税率を低く抑える軽減税率の骨格をまとめた。買い物をしたら軽減分を所得に応じて後日還付してもらうというもので、これにもマイナンバーの仕組みが活用されるという。

 たとえば、コンビニでたばことティッシュとおにぎりを買ったとき、ICチップ付きのマイナンバー番号カードを示すと、店頭のIT(情報技術)システムによって、おにぎりの分だけが記録される。こうして記録した食料費が1年間で50万円だとすると、所得の低い人に対しては増税した2%分の1万円を還付するというシステムだという。しかし財務省の案では還付に4000円程度の上限を設ける予定だ、とも報道されている。

 冗談は休み休みにしてほしい。消費者は、子供も含めて、コンビニなどで買い物をするごとに番号カードを店員に見せることになる。つまり、いつも持ち歩かなければならない。ということは、紛失や盗難のリスクも高まる。

 また、地方の小さな店にまでカードを読み込む機器が行き渡るまでには時間も経費もかかる。現実的ではない。こんなバカげたことを本気でやろうとしている目的はそもそも何なのか、を勘ぐりたくもなる。

 だいたい、これが実現したら、資産だけでなく、どこで何を買い、食べたかということまで政府にすべて把握されることになる。まさにジョージ・オーウェルの小説「1984」のような監視社会になるのである。4000円程度の還付のために1年中すべての買い物を監視する、というのはコスト的にも利便性の点でも割に合わない。むしろアメリカのように低所得者にフードスタンプ(食料品が買える券)を配ってしまった方が手っ取り早い。

 国民の理解ができていないのに、「来年からスタートします」というのは勘弁してほしい。私はもう少し時間をかけ、「マイナンバーによって、具体的にこういう社会になりますよ」とまず国民に理解させ、そのうえで議論をして現実的なものを生み出していくべきではないか、と思う。軽減税率を言い出した公明党も、ここは気合を入れて国民に納得のいく制度に作り直してもらいたい。

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